「ピース・メーカー」


日本YMCA同盟協力部統括
広田光司(ひろた こうじ)

 2004年8月に「全国平和キャラバン隊」がイスラエル、インド、スリランカ、米国の青年によって組織され、日本全国を巡りました。団長は現広島平和文化センター理事長のスティーブン・リーバーさんです。三浦綾子さんの「氷点」でも有名な青函連絡船洞爺丸海難事故で、日本人女性に救命具を譲り犠牲となったディーン・リーパー氏の息子さんです。そのキャラバン隊で配布された冊子「ヒロシマ維新」はスティーブンさん自身の執筆によるものですが、冊子の中でスティーブンさんは「平和の文化・ピースメーカー」「戦争の文化・ワーメーカー」という言葉を紹介しています。「戦争の文化では不正な行為に対する怒りは当然のことで、有益な良いことだと考えます。正義がなされ、悪事を働いた者が相応の罰を受けると、被害者は安堵する。今日の世界は戦争の文化に支配されています。戦争の文化では競争は種を改善するものと考えます。平和の文化では怒りそのものが敵なのです。敵などはいないのです。」と主張しています。
 「敵を愛せ・敵のために祈れ」と聖書は教えますが、敵とは誰でしょうか、敵とは他ならぬ私たちの内にある「怒り」なのです。私たちは昔から正義の味方・ヒーローにあこがれてきました。古いところでは月光仮面、鉄腕アトム、高倉健などです。悪人によって正義が攻撃を受け、耐えて耐えた後に悪を懲らしめるというステレオタイプです。正義が悪を懲らしめるためには暴力も「善し」とする文化の中で育ってきました。私たちは自分たちを守るためには武器・軍隊もまた必要なのだという論理に惑わされます。戦争・争いは常に正義のために行われます。悪のために争う人・国はありません。正義と正義が互いに争うことを戦争と言います。
 中国の気功の大家に「健康の秘訣」を尋ねたところ「欲を捨てること」との答えでした。「欲を捨てると人間は生きて生けない」という極論と共に「競争は人間の向上に役立つ」という主張もよく聞くところです。
 スポーツも必ず競争と勝敗を要求しますが、中には競争のない世界もあります。YMCAがかつて考案した「宣言タイムレース」という、宣言したタイムに一番近い人を讃えるというものです。
 競争は戦争の文化に通じます。スティーブンさんは、「ピースメーカーにとって大切なのは勝負を決めることへの誘惑に逆らうこと」と続けます。そして「祈りは忘れてしまいがちな平和を思い出すための素晴らしい手段なのです。たとえ少数であっても、平和な世界を願って純粋な真摯な祈りをささげる人がいる限り、神様はワーメーカーが私たちを抹殺することを許さない」と断言しています。愛と祈りをもって競争の文化・戦争の文化の誘惑に打ち勝っていきたいものです。




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