「災害と平和」
アジア保健研修所 事務局長
佐藤 光(さとう ひかる)
昨年末12月26日に起きたスマトラ沖地震とそれに続く津波は、想像を遙かに超える痛ましい災害をもたらしました。 私たちも、かつてアジア保健研修所で学び、今、被災各地で救援活動をしている元研修生を支援するための募金活動を行いました。彼女、彼らとのやりとりを通じて、災害時におきる、平和の対極ともいえる「強権発動」について、いくつか考えさせられました。 1.国際レベルでの「強権発動」 緊急救援の人員として外国軍隊が派遣されたことはよく知られています。スリランカの元研修生は1月末の段階で次のように書いてきています。 「こちらの情勢は、アメリカ海軍をはじめとして、インド軍、パキスタン軍、カナダ軍がすでに進駐していて少し緊張状態の中にいます。(中略)このアメリカの進駐は、私たちにとって12月26日の大津波よりも破壊力のある巨大津波のようです。」 2.中央政府の「強権発動」 被災各国の対応が、すべて挙国体制を強化したいと考える人によって意図的に作られているとは言いませんが、中央政府からの一括方針が、結果的に一つの権力に従うという図式を生み出すという流れは明らかに見てとれます。 しかしスリランカでは、復興計画が男性中心の発想で進められていることに対抗して、60にのぼる現地女性団体が連合体を作り、積極的に提言活動を行っているという連絡を、元研修生から受け取りました。 3.地域レベルでの「強権発動」 最も見えにくく、しかし実は人々の中に「強権発動」を受容させていく仕組みが、小さな地域レベルでの救援活動の中にあるのではないかと想像します。災害時、主に外部からの「援助者」と自ら任じる人たちによって、それまで個別の生活を送っていた人たちが一日にして「弱い被災者」という単一のラベルを貼られます。これについて直接言及している元研修生はいませんが、10年前におきた阪神大震災の救援活動に参加した自分の経験からも容易に想像できることです。当時医療コーディネーターとして、「緊急時なのだから」という割り切りの元で、多くの個別の生活やニーズを切り捨てながら即断即決の救援活動を行っていました。あの当時の自分は、まさに「強権発動」者でした。 しかし似たような状況の中でにあって、今回、別の動きも生まれています。インドの元研修生からは、「いままで放っておかれた漁民、救援から切り捨てられたダリット(被差別カースト)、先住民などが一緒に復興作業に加わり、『沿岸コミュニティ』を作っていくきっかけとしたい」という通信が寄せられています。これまでダリット支援を中心にしてきた彼が被災をきっかけに新しい将来像を描きはじめたようです。 いま私たちに必要なのは、災害時にいつもあからさまに登場する「強権制度」を仕方なく受け入れることではなく、それを越える代替案を持つことではないでしょうか。 |