「自主独立の”非戦-小国主義”へ」
大嶋果織
日本キリスト教協議会(NCC)総幹事 
 「今、裁判をしているんです」と言って、森野善右衛門さんは私に2014年11月13日付の「声明」と、「群馬の森・追悼碑の存続のために」という裁判支援の趣意書を渡してくれた。2015年春、群馬の牧師会で再会した時のことである。東北学院大学を退職した森野さんは、群馬で日本基督教団の巡回教師をしておられたのだった。
 声明文と趣意書には、①県立公園・群馬の森にある一基の追悼碑が県から撤去を求められていること、②この追悼碑は、日本のアジア侵略と植民地支配の歴史を記憶し反省し、その上に立って真の友好関係を築いていこうという趣旨で、多くの市民の協力により建立されたものであること、③「追悼碑を守る会」は、群馬県に追悼碑の設置期間更新を求める訴訟を起こしたことなどの説明があり、最後に森野さんの名前が守る会の共同代表として、また裁判の原告団代表として記されていた。「声明」の日付は提訴の日である。
 それから8年後の2023年秋、私は森野さんの訃報を聞いた。さらに、しばらくすると、群馬の森の追悼碑が県の代執行によって撤去されそうだとのニュースが伝わってきた。私は激しく後悔した。追悼碑を守る活動に、全然関わっていなかったからである。
 もう遅いかもしれないけれど、何もしないよりはまし。私は撤去のために公園が封鎖される今年1月末までの数週間、さまざまな形の抗議行動に加わった。大勢の人がいろんな方法で「撤去反対」を訴えていた。その思いを踏みにじって、県が暴力的に追悼碑を撤去したのは報道されたとおりである。その後、「追悼碑を守る会」は新たな形で活動を引き継いでいこうとしているという。
 私はというと、4月に前橋から東京に転居した。その慌ただしい引っ越し作業の中で私が何度も手にしたのは、『小さい者こそ大きい―21世紀の日本と教会』という題の森野さんの本である。大国主義・小国主義とは何かということを論じたその小さな本のあとがきで、森野さんは次のように述べている。
 「今日の日本は、重大な岐路にさしかかっている。21世紀の日本が、世界と共に生きる道は明治以来の”膨張-大国主義”の道を捨てて、超大国の力の政策に追随することなく、自主独立の”非戦-小国主義”に徹することである。日本の教会・キリスト者に期待されている使命と責任は大きい」。
 この本の出版は2001年だ。それから23年たった今でもこの言葉が有効なのが悲しい。今、わたしは森野さんから、「小さい者こそ大きい」という「この世の価値基準を逆転させる福音のメッセージ」をしっかり掴んで生きよと、背中を押されている気がする。膨張-大国主義ではなく、非戦・平和の小国主義でいこう。
                  (おおしま かおり)