理想とする共同体形成 |
日本聖書協会・総主事 具志堅 聖 |
「〔あなたがたの神、主は〕孤児と寡婦の権利を守り、寄留者を愛してパンと衣服を与えられる方である。だから寄留者を愛しなさい。あなたがたもエジプトの地で寄留者だったからである。」(申命記10:18-19) 「主はこう言われる。公正と正義を行い、搾取されている者を虐げる者の手から救いなさい。寄留者、孤児、寡婦を抑圧したり虐待したりしてはならない。また無実の人の血をこの場所で流してはならない。」(エレミヤ書22:3) *聖句は聖書協会共同訳より引用 日本聖書協会は今年創立146年、2025年には150周年を迎えます。明治維新直後に来日した英国・米国の宣教師たちの働きから始まり、キリスト者の信仰の基となる『聖書』を翻訳・制作・頒布することを私たちのミッションとしてきています。開国後の日本において、最初に来日した宣教師たちはまさにマイノリティーで、お寺の一部に滞在した記録もありますが、さまざまな困難を抱えつつ宣教活動をされたのです。 2020年末現在、法務省の統計では在留外国人の数は280万人を越えています。またコロナ前2019年の統計では訪日外国人客数は3600万人を越えています。国際化が進み、人々が自由に移動するようになり、それに応じて国際結婚も増加しています。通常国際会議では英語が共通語でさまざまな方々と交流するのですが、日本ではアジア・欧米・中東の国々に国籍を持つ方々と日本語を共通語にして交流しています。本当に特別な感覚を持つ経験です。 その際、やはり心に留めたいことは、外国から来日されて生活している方々はある種の弱さや不利な条件を負っているということです。私は約17年間海外で生活してきましたが、言葉・習慣・文化の違いなどを克服する努力が必要でした。強弱はあれど、差別やえこひいきなど、どの社会にも存在します。心に歪みを持つ私たち人間社会であるがゆえに、聖書には先のような聖句(律法)が記されているのだと思います。 古代メソポタミアには、寄留者・孤児・寡婦などの社会的弱者への保護を支配者の義務とする教えがありました。それが当時の理想とする共同体形成に求められていたという歴史的事実はとても重要な意味を持つと思います。日本は明治以前、外国人が自由に入国できなかった時代があったので、寄留者の保護などを意識することは少なかったでしょう。この課題を意識することが大切です。8月にNCC(日本キリスト協議会)から抗議声明が出されましたが、スリランカ出身のウィシュマ・サンダマリさんの死亡事件はとても悲しい出来事でした。平和のためにこのようなことは決して繰り返してはならない。そのように祈ります。 (ぐしけん きよし) |