シャロム
金 柄 鎬   在日大韓基督教会総幹事
 古代ロ-マ帝国は、世界を支配したロ-マは平和を作りあげたと宣言し、それを「パックス・ロマ-ナ」(Pax Romana)と言った。しかし当時のロ-マ帝国には、ロ-マ人より、戦争に負けて他国から奴隷として強制連行された人々が多かった。奴隷に平和があるはずがない。そこには不安と怨み、復讐の思いが渦巻いていた。ロ-マの人々が平和だと言っている影には、どんなに苦しんでいる人が多かったか。
 日本では、「平和」という言葉をたくさん使っている。しかし、日本が「平和だ、幸せだ」と言っているその影には、どんなに苦しんでいる国々、どんなに苦しんでいる人々がいるかを、果たして考えたことがあるのだろうか。
 敗戦によって軍事力も経済力も失った日本が、どうやって経済的に立ち上がることが出来たのか。ちょうどその時、1950年に朝鮮戦争が起こり、日本はアメリカ連合軍の出撃基地、兵站基地となり、たくさんの軍事物資を日本で造り、それが使われた。そのおかげで日本は復興し、1960年代経済成長を迎えた。戦後日本は、朝鮮半島における南北分断の原因や責任などは一切問われず、アメリカの恩恵のもとで経済発展を築いたのである。
 戦後(解放後)祖国に帰れず日本での生活を余儀なくされた在日コリアンをはじめ、いま諸外国から日本に生活の糧をもとめて来ている人々も合わせると300万人の外国人が暮らしている。その人たちがどんな思いをもち、どんな環境で、どんな扱いをされているのか、考えたことがあるのだろうか。「日本はいま平和である」と言っているだけではないのか。これはPax Japanaに過ぎない。
 日本はもっと強いPax Japanaを作るため、再び戦争ができる憲法改悪を進めている。そのために近隣諸国との緊張関係を意図的に高めることにより、国民の危機意識を、メディアも動員しながら煽り立てようとしている。在日コリアンに対するヘイトスピーチはいまでも収まる気配はなく、また昨年からは日韓政府間の関係は悪化し、貿易や人材交流が途切れてしまった。さらに今年2月からは、新型コロナウィルス感染の恐れゆえに国の玄関の扉を閉じている。
 在日大韓基督教会においては、このような状況を乗り越えるために「和解と平和のための日韓キリスト者合同祈祷会」を、日本と韓国の諸教会に呼びかけ、第1回目は昨年8月11日にソウルで、第2回目は10月9日に東京で行った。今年は3月に韓国で、5月に日本で行う計画であったが、延期せざるを得ない。
 聖書では平和をヘブライ語で「シャロム」と言う。この「シャロム」というのは、単純に「戦争のない状態」のみの狭い意味の言葉ではない。利己心がなく、ゆるし、配慮、譲歩、歓待のために犠牲を伴うことであり、まさにイエス・キリストの十字架の犠牲によってできる平和である。
                       (キム・ビョンホ)