和解の使者 |
渡部 信 日本聖書協会総主事 |
今年の春、庭野平和財団主催の年一度の「平和賞」の受賞式に出席する機会を得た。今回は第36回を迎え、世界の中の平和に尽くした人物の中からジョン・ポール・レデラック博士が選ばれ、ご本人も来日し六本木にある国際文化会館で受賞式が行われその功績を称えた。彼は30年以上にわたり世界の紛争地へ赴き、調停役を務め、米国ノートルダム大学クロック国際平和研究所国際平和構築学名誉教授として活躍されて来た方である。 彼自身は、キリスト教派の中で最も保守的な参戦拒否のメノナイトに属し、お互いが対立し武力闘争に陥る前に、問題の原因を突き止め、対話による相互理解を促進するという手法で、市民、政府関係者、反政府関係者を対象に、この和解プログラムを35カ国以上の国々に実地してきた経歴を持つ。具体的に活躍された国にはソマリア、北アイルランド、コロンビア、タジキスタン、ネパールなどがある。非常に温厚で、日本の俳句にも造詣が深く、ご自分でも毎日、俳句を詠んでおられるとのことで、松尾芭蕉の研究家でもある。 紛争はお互いの主張と各々の正当性を主張することによってエスカレートして、対立構造を作り、和解と対話の機会を失わせる。最後には嫌悪と暴力にとって代わる。和解の務めは、対立からは何も実を結ばないこと、冷静に対話をし、解決と和解への道筋を示して、最後に相互が納得のいく調停へと導くことが必要だ。こうした姿勢からは「愛は忍耐強い」(Ⅰコリント13章4節)との使徒パウロの言葉が思い出させられる。 私は時々、同世代のKさんのことをフト考える。彼はクリスチャンとしてベトナム戦争に反対して学生運動をおこし、ギターを片手に平和活動に没頭した青年だった。そこから学園闘争へと突入して行く中で、自分の無力さを感じ、「東アジア反日武装戦線・狼」を結成するに至った。彼は逮捕され、現在、共犯者はハイジャックによる人質との引き換えで解放されて逃亡中なので、彼だけは死刑囚として45年間刑が執行されないまま70歳を越えようとしている。 私が「キリストに出会う」という説教集を出版した時、友人がこの本を彼の独房に差し入れたところ隅々まで読んでくれて、細部にわたるまで校正のメモを返してくれた。直接、会う機会はなかったけれど、教会員名簿には50年前の記録のまま今も残っている。和解の使者は、相手も周囲の人にも喜んでもらえる平和と解決の道を示し、和解へと導く人であることを願いたい。 (わたべ まこと) [ニュースレターに記載した後、修正があったため、HPでは修正版を載せました。] |