昨年、日本におけるキリスト教保育は創始130年を迎えました。これを記念しキリスト教保育連盟では映像資料DVD「キリスト教保育創始130年記念」を制作しました。この作業を通してキリスト教保育の歴史を改めて振り返り、興味深い資料との出会いも得ました。
キリスト教保育連盟の前身で1906年創立の宣教師達によるJ.K.U.(Kindergarten Union of Japan)から出された1923年の年次報告に「幼稚園での種まき″」と題したE.レディアードの文があります。一部を引用します。「昨年度の私たちの幼稚園の年間計画の統一主題は、「世界平和」でした。ある日、1人の園児が家に帰るなり、こういいました。「お母さん、ぼくたちにはもうお父さんは必要ないよね」その子の父親は、陸軍の高級将校でした。(略)彼は今日、幼稚園で、世界平和と愛が大切なことを教えてもらったと母親に話し「もしぼくたちがもう戦争をしないなら、お父さんはいらないんだよ」といったというのです。明らかにこの子にとって「父親」は、お父さん″というより立派な兵士″でありました。だから「平和」という理想がこの子の心にふれたとき、このような考えがかき立てられたのでしょう。何百人もの園児たちの心の中に、「愛」と「平和」の思想を植え付けることが、この軍国主義、物質主義の日本にどのような意味をもたらすことになるでしょうか。まさに今が、日本においての種まき″のときなのです。(略)幼児期にまかれた種は、この日本において、国民の理想を高め、国際間の兄弟の交わりと平和を希求するというすばらしい実りをもたらすことでありましょう」(ANNUAL
REPORT OF THE JAPAN KINDERGARTEN UNION 第7巻 1985年 キリスト教保育連盟編pp.74)
宣教師たちは世界の新しい保育の動向を得、保育実践を伝え合い、保育の質の向上を目指しました。さらに子どもが主体的な人間として神とともに生きることを願いキリスト教保育に熱心に励みました。
しかし残念なことに日本は戦時態勢へ向かい、キリスト教保育も時局に巻き込まれました。保育の日常には社会が反映されます。100年前の種まきは、ごく少数でも人々の良心を育て平和を希求する心を芽生えさせたことでしょう。昨今、様々なことに危うさを感じる時代ですが、この先、為政者の強い思惑で、子どもたちの平和な時が再び損なわれることの無いように祈ります。そして希望を持ちながら今日も“種まき”を続けます。
(かたやま ともこ)
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