「9条+20条」
カトリックさいたま教区司教 谷 大二(たに だいじ) |
「憲法9条ってご存知ですか?」と聞いて「知らない」と答える人はいません。海外でも9条は有名になっています。ところが、「憲法20条ってご存知ですか?」と聞くと、ほとんどの人が「知らない」と答えます。9条のことで活動している人たちも例外ではありません。 20条は信教の自由と政教分離の条文です。ちなみに条文は以下のとおりです。 第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。 2 何人も、宗教上の行為、祝典、儀式又は行事に参加することを強制されない。 3 国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。 400年前、信教の自由という考えかたのなかった時代にキリシタン迫害が起こりました。それは明治になっても続きました。明治憲法が制定(1890年)されて、「信教の自由」についての条文がさだめられましたが、それは制限がついていました。そのためキリスト教は政府による弾圧を受けました。 大日本帝国憲法28条 日本臣民ハ安寧秩序ヲ妨ケズ及ヒ臣民タル義務ニ背カサル限ニ於イテ信教ノ自由ヲ有ス 戦後の日本国憲法で信教の自由と政教分離が厳格に定められることによって、初めて十全な信教の自由が保障されるようになったのです。信仰を持たない人にとっても思想や信条を守るための重要な条文だといえます。 しかし、20条を理解するときに、信教の自由という文脈だけで理解することはできません。第二次世界大戦の終結のときに日本が受け入れたポツダム宣言の10項には次のような条文があります。 「(略)日本国政府ハ日本国国民ノ間ニ於ケル民主主義的傾向ノ復活強化ニ対スル一切ノ障礙ヲ除去スベシ言論、宗教乃思想ノ自由竝ニ基本的人権ノ尊重ハ確立セラルベシ」 これらは日本が戦争に突っ走った原因を分析して、再び戦争への道を歩まぬようにするための柱となるものです。日本国憲法の制定においても礎となったのです。そのなかに信教の自由があげられています。戦前・戦中、国家と国家神道が一体となって戦争にまい進するなかで、日本のみならず朝鮮半島などでも神社参拝が強要され、宗教、思想の弾圧も行われたことを忘れてはなりません。また、多くのキリスト教も戦争協力の道を進んでしまったのです。20条は戦争という文脈のなかでも重要な条文なのです。 戦争ができる国づくりは軍備だけではなく、思想面での準備も必要です。事実、新ガイドライン関連3法、国旗国歌法(1999)、国民保護法、有事関連七法(2004)、教育基本法(2006)、防衛省、国民投票法(2007)と戦争の準備と同時に思想教育も着々と進められています。 わたしたちは平和な国づくりを進めていくうえで、日本国憲法の9条だけではなく、20条も、さらにいえば、基本的人権も守っていく必要があります。9条だけではなく20条についても、より多くの人に知っていただき、皆さんとともに活動を広めていきたいと思います。 |