経済戦略としての戦争

NCC議長(日本聖公会)  
輿石 勇(こしいし いさむ)

「王は馬を増やしてはならない。
馬を増やすために、民をエジプトへ送り返してはならない。」
                        申命記17章16節

 ここに引用した聖書の言葉は「王の法」と呼び習わされている神による禁止命令である。ここに言う「馬」とは現在の軍備のことであり、それを「増やす」というのは、さしずめ「軍備増強」ということである。「民をエジプトに送り返す」というのは、過酷な徴税システムを導入して民を重税に喘がすことを示す。つまり、軍備には想像を超える巨大な資金が必要であり、そのために軍備増強を諮る王のもとにある民は重税に喘ぐことになるということがこの法の前提である。この法はイスラエルの王についての法なので触れられないが、巨大な資金を要する軍備を供給するのは、もうかる商売であることをも前提としているかも知れない。そうすると、軍備供給者は「むさぼってはならない」という十戒の一つに抵触することになる。
 この法に認められるように、大昔から、今で言う、産軍複合体が予見されていた可能性を想定することができる。しかし、産軍複合体は当然ながら近代以降露骨になり、現在では国際的な金融システムがこれに拍車をかけることになった。例えば、日本バプテスト連盟に属する佐々木さんがその和解のために献身されている、ルワンダにおける人種の違いに基づく2つの集団間の争いを見てみよう。この内戦の背後に漁夫の利を得んがための、ある西欧先進諸国の画策があったことは知られている。悪名高い「国際開発融資」(最貧諸国の国際累積債務)の提供者は自国の武器を売りつけて、武器製造業者に収益を上げさせた上、その武器で殺された遺族の払う重税から高金利で融資金の返済を受けて、更に利益を上げてきたのだった。
 日本の政府はソマリア沖に出没すると噂される海賊征伐のために、自衛隊を同海域に派遣することを決めた。この海賊については諸説があって、昨年の秋以降俄かに海賊事件報道が頻繁になったという情報もある。仮にそうだとすると、サプライム・ローンに象徴される金融システムの崩壊と余りにもタイミングが合致するように思われるのだが、またしても経済戦略としての戦争という疑惑がよぎる。
 ソマリアに自衛隊を派遣するのは、ソマリア沖を航行する日本の船舶の安全を守るためだというのが日本政府による説明である。しかし、その事実関係は必ずしも明らかではない。多くの識者が指摘するように武力闘争を許可して自衛隊を海外に派遣し、いずれ日本を戦争ができる国にするための実績づくりのための戦争である疑いは拭いきれない。なにしろ、戦争は儲かる産業なのだから。
「貧しい人は地を継ぎ、豊かな平和に自らをゆだねる」(詩篇37:11)と詩人は歌う。貧しくなる覚悟をもって、大量の人命の殺戮と自然の破壊に反対の声をあげたいものだ。




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