平和を作り出す人になろう


日本クリスチャンアカデミー関東活動センター所長
薛 恩峰(しゅえ えんふぅん)

 1945年8月6日、米軍は広島に史上初の原子爆弾を投下した。私たちはこの事実をどのように受け止めるべきだろうか。
 今日、日本人の多数が、戦争を知らない世代へと移ってきた。中国には日中戦争に関する大きな記念館が2つある。「侵華日軍南京大屠殺遇難同朋記念館」(日本では通称「南京大虐殺記念館」と呼ばれる)と「中国人民抗日戦争記念館」だ。1996年、わたしはそれを日本キリスト教協議会(NCCJ)訪中団と一緒に見学した。いずれにも、「前事不忘、后事之師」(過去のことを忘れないで、将来の戒めとする)という言葉が大きく記されている。
 1981年2月25日、故教皇ヨハネ・パウロ2世は広島を訪問された時、「戦争は人間の仕業です。戦争は人間の生命の破壊です。戦争は死です」と説いた。この言葉ほど戦争における人間の責任を明確に言い切ったものはなかった。そうである以上、私たちは如何なる理由があっても、戦争を決して正当化することができない。歴史は、決して忘れてはならないもの。被害者の立場であれ、加害者の立場であれ、戦争は日本人の十字架だ。過去をふり返ることは、明日への責任を担うことだ。日本人はこのことを忘れることなく、近隣諸国との関係を考えることが大切ではないか。
 「少年とこだま」の話に耳を傾けたい。森のはずれにひとりの少年が住んでいた。ある日のこと、少年は山に向かって叫んだ。
 「おーい」
 すると、こだまがかえってきた。
 「おーい」
少年はおもしろくなって、また叫んだ。
 「ばかやろうー」
 「ばかやろうー」
 「こっちへこーい、殴ってやるから」
 「こっちへこーい、殴ってやるから」
 「いま行くぞー」
 「いま行くぞー」
少年はびっくりした。そして家の中にかけこんで、お母さんに言った。
 「お母さん、たいへんだ。山の向こうに悪い子がいるよ、ぼくのことを殴りに来るんだって」
するとお母さんは言った。
 「いいえ、あの子はけっして悪い子じゃありませんよ。それはきっと、あなたがあの子のことをよく言わなかったからでしょ。今度は優しい言葉をかけてごらんなさい。そうしたらきっと、あの子も優しくしてくれますよ。さあ、出て行って、ためしにもう一度やってごらんなさい」。
少年は出て行って叫びました。
 「おーい」
 「おーい」
 「君はいい子だなー」
 「君はいい子だなー」
 「こんどいっしょに遊ぼうねー」
 「こんどいっしょに遊ぼうねー」
少年は大喜びで、家にかけこんできて言った。
 「おかあさん、あの子はやっぱりいい子だったよ」
イエスは私たちに「平和を作り出しなさい」と呼びかけておられる。いま、私たちの世界は歴史の岐路に立たされている。戦争や暴力の文化を拡大、再生産していくのか、非暴力による平和と和解の文化を構築していくのかという選択だ。願わくは、一人一人が平和を作り出す者でありたい。





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