巻頭メッセージ　８５号

神の国の幻

ＮＣＣ副議長、在日大韓基督教会牧師
韓　聖炫（ハン　ソンヒョン）

この２月１８日から１０日間の日程で、イスラエル「聖地」旅行に行って来ました。在日大韓基督教会が今年創立１００周年を迎え、その記念として神学校が主催した企画で、主に関西、関東地方から３０数名が参加し、とても意義深く恵みに満ちた旅行でした。イタリア経由でカイロに入り、エジプトで２泊、ヨルダンで２泊、イスラエルで４泊しました。出エジプトのコースを辿りながら荒野の土地をバスで移動したのですが、聖書の舞台となる各地を垣間見ながらいろいろなことを考えさせられました。
　エルサレムをたとえ「聖地」と呼んだとしても、イスラエル観光を単なる観光で終わらせてはならないという思いです。エジプト側からイスラエル南端のタバ検問所を通って国境を越えましたが、観光客といえども、とても時間がかかりました。また東のヨルダン側からアレンビー橋検問所を通って国境を越えるときも緊張感がありました。エルサレムから近くのベツレヘムに移動するときには、夕方でしたが、背の高い分離壁が見え、やはり厳しい中近東紛争の渦の只中にいることを感じさせられました。民族とは何なのか。旧約聖書で語られているイスラエルでは必ずしも選民思想や自民族中心主義はないのですが、現代イスラエルとどう関連しているのか。教会は旧約聖書を正典としているのですが、私たちはこれを御言葉としてどう聴いていくのか。生きている時代は別ですが、私たちの信仰生活とどう関わるのか。聖書に関わるいろいろな遺跡を巡り、始めて見る風土に感激しながらも、現在この国に生きている人々との交わりがなかったことを不満に思ったりもしました。
　旅行から帰ってみると、長編ドキュメンタリー映画『ＮＡＫＵＢＡ（ナクバ）』（広河隆一監督）の案内チラシがきていました。６０年前にイスラエルが建国され、多くのパレスチナ難民が発生しましたが、この事件をナクバ（大惨事）と地元の人々は言うことを知りました。遠い国の歴史的な出来事ととらえてはならないでしょう。
　成田空港で昨年から実施された指紋・顔写真登録の前を過ぎながら、日本でも外国人を偏見視し、差別する風潮が知らず知らずのうちに助長されていく状況を目の当たりにしました。私たちの教会は民族・国家・国境などの壁をいかに打ち崩していくことができるのでしょうか。「そこではもはやユダヤ人もギリシャ人もなく、奴隷も自由な身分の者もなく、男も女もありません。あなたがたは皆、キリスト・イエスにおいて一つだからです」（ガラテヤ３：２８）

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