「コンプレックス2030」と平和を実現するための対抗軸


日本キリスト教協議会総幹事
山本 俊正(やまもと としまさ)

 「コンプレックス2030」という米国のご計画をご存知でしょうか。米国政府は2030までに、新しい核兵器生産施設の建設と、兵器を作るための核原料を少ない拠点に集約し強化することを議会に提案しています。計画書にある核兵器生産施設、「統合されたプルトニウムセンター」(CPC)は、年間125から200か所のプルトニウム採掘坑を作る能力を有する施設となり、これは新たな核戦争のために必須の条件となります。NPT(核兵器不拡散条約)に署名する際、米国は条約第6条の核兵器廃絶の目標に向かって努力することを明言しましたが、「コンプレックス2030」計画案は反対の方向への第1歩であり、無制限に新たな核兵器生産能力を許容する意味で、条約第6条とは対立するものであり、恐ろしい計画です。
 戦後の平和理論の中で、もっとも国際政治の舞台で一般的に叫ばれたのが抑止理論でした。抑止理論とは、「軍拡」という言葉で表現されるように、相手が軍備を増大させれば、それに対抗して、こちらも増大させるということです。そのことによって、相手を食い止め、押さえ込むと言う理論です。抑止論は相手を征服するという前提で軍備を拡張するのではなく、むしろ戦争を抑止するという建前で始まったわけです。ジョージ・オーウェルの「1984年」という小説のなかでは、戦争を遂行するのは、「平和省」という名前で呼ばれている省になっていますが(cf国防省、防衛省)、まさに第二次大戦以降、戦争は平和という名目の下に行われてきたわけです。抑止論の基本的発送は、「相手国が基本的に悪である」という建前です。性悪説が前提になります。ブッシュ大統領は、イラク、イラン、北朝鮮を「悪の枢軸国」と呼びました。相手を押さえつけるためには軍備と力しかない、隙を見せれば敵は、それに乗じてくる。9/11以降、この抑止論の呪縛から抜け出せない米国が、たどり着いた結末が「コンプレックス2030」だとも言えます。
 「平和を実現するキリスト者平和ネット」の働きは、「平和を実現する」ことにその重点が置かれます。キリスト教の絶対平和主義の歴史を見てもわかるように、宗教的平和主義とは、平和を尊重するとか、平和を大事にすることにとどまりません。「平和を実現する」ことを目指します。平和を愛好するのではなく、それは、あらゆる戦争、暴力を否定する立場に立つということを意味しています。平和を実現する手段として暴力を用いないということです。暴力は非常に多様です。軍隊、警察などの強制力としての暴力があります。また、富や財産を使う権力、カリスマ性などの心理面に作用する暴力もあります。これに対してキリスト教の十戒で述べられている「汝、殺すなかれ」は、理屈は問わず、人は殺してはならないという、絶対命題です。「テロとの戦い」、「コンプレックス2030」、暴力と軍拡に対峙する平和を実現するための対抗軸が、ますます必要とされています。




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