テロ特措法と集団的自衛権


日本カトリック正義と平和協議会専門委員
木邨健三(きむら けんぞう)


 去る5月3日の憲法記念日、朝日新聞の意見広告に次のアピールが記されていた。「自衛隊はイラクとインド洋からすぐ撤退せよ」。このなかでイラクとはイラク特措法のことであり、インド洋とはテロ特措法である。さて、今回はテロ特措法と集団的自衛権について記し、そのあとで憲法とのかかわりについて考えることにする。
 テロ特措法は2001年9月の米国同時多発テロを受け、同年11月に施行された。インド洋上で対テロ作戦に従軍する各国の艦船に、海上自衛隊が燃料や水を補給している。2年間の時限立法だったが、03年に2年、05年と06年には1年ずつ延長されており、今年11月1日が期限になっている。8月に防衛省がまとめた資料によると、艦船用燃料は769回提出したうち、大半の350回がアメリカ向け。このなかには、アフガン作戦とともに、イラク戦争に参加していた米空母キティホークなどへの補給も含まれ、テロ特措法の範囲を逸脱した給油活動が行われていたことが、最近、米国の情報公開を使った調査によって明らかにされた。6年経っても国民のテロ根絶に向けてのまともな成果すら説明できない給油活動はやめるのが当然。アフガン復興をいうなら、軍事掃討作戦を中止し、日本の活動も軍隊と切り離した人道復興支援をするべきではないのか。
 次に集団的自衛権は、自国が直接攻撃されない場合でも、密接な関係にある他国への武力攻撃を実力で阻止する国家の権利。国連憲章や日米安全保障条約など、国際法上は認められている。しかしこれまで日本政府は「憲法9条の下で許容されている自衛権の行使はわが軍を防衛するため必要最小限の範囲にとどまるべきものと解しており、集団的自衛権を行使することはその範囲を越えるもので、憲法上許されない」としている。
 憲法とのかかわりについては、ある憲法学者によると、テロ特措法の問題は、「わが国は、現行憲法の下で、海外で戦争に参加してよいのか?」ということであり、それは同時に、「憲法を無視する政治」「権力者による法の支配の軽視」のことである。まず憲法9条は、第2次世界大戦の反省のなかで、戦争を放棄し、2項で戦力と交戦権(戦争の手段)を自らに禁じている。このような前提の下で、わが国の政府は伝統的に次のような解釈、立場をとってきた。専守防衛=自国を守るために必要最小限の軍事行動とそのための自衛力しか自らに認めない。従って、他国を守る集団的自衛権の「行使」は認められない。海外派兵の禁止=いかなる名目であれ、自衛隊は海外で軍事行動をしない。要は、武力行使を目的として自衛隊を海外派兵しない。また、他国の武力行使と自衛隊を一体化させない。しかし、テロ特措法は、アフガンで「戦争」を遂行している米軍などに、自衛隊がインド洋上で給油することを可能にしている。政府はこれは給油であって「戦争」ではないとしているが、これは明白な詭弁であり、憲法違反にほかならない。





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