「ひろしまのこころを 世界に」

日本YWCA
実生律子



 今年8月、広島・長崎の“あの時”から60年を数えます。被爆を余儀なくされた方々が、長い沈黙の時を経て語り始めた被爆の体験を耳にするとき、少なくとも私たちは戦争の愚かさ、平和の尊さを無条件に心に刻みます。なぜならそこには、体験した人だけが語れる真の苦しみが見えてくるからです。その力に押されて私たちは語る人の痛みに共感でき、さまざまに想像する力が与えられ心動かされるのです。しかし心動かされても、そこから一歩を踏み出すことがなければ、行動を伴うことがなければそれは単なる事柄にしか過ぎません。
 私の属する日本YWCAは今年100周年を迎えます。日本YWCAは戦時中を省みてキリスト者として悔いるところが多かったと告白し、いかなることがあっても平和を希求していくという決意を会の総意として戦後の歩みを始めたのです。中でも平和憲法を守り、核を否定する立場に立つことはながい間のYWCAのゆるぎない姿勢です。1971年に始まった「ひろしまを考える旅」は、今年は100周年を記念して国際平和プログラムとして8月に行われます。韓国・中国・パレスチナからのゲストや海外からの留学生、日本の中・高・大学生、YWCA会員など100名が広島に集います。「ひろしま」は過去のものとしてではなく、現代とのかかわりの中で、更に未来への問いかけとして受け取るべきであり、神によって与えられた「生命」の尊厳を取り戻すしるべでもあります。  生き残った被爆者に残された時間は多くはありません。捨てがたい憎しみを乗り越え、心から人類の平和を願って思いを伝え続ける被爆者から私たち受け継ぐものはそこにどのような意味を見出すことが出来るのか5箇所のフィ−ルドワ−クや5つのワ−クショップを通して明らかにしていきたいのです。他者との出会いによって目を覚まされ心動かされ自分で考え判断できるものとされたいのです。そしてそれぞれの場で新たな歩みを始めたいのです。
 今私たちの生きるこの世界は内外共に平和に逆行する、危機的ともいえる道を歩み始めているように思えます。日本では自衛隊を“人道復興支援”の名の下に派遣したことに勢いを得て、憲法「改正」の声がはばかることなく聞かれます。また去る5月NYで開かれた第7回NPT再検討会議での結果をみてもその危惧は深まります。NGOの活発な動きに比して政府間では結局何の合意文書も生み出すことは出来ませんでした。
 戦争を全ての解決策であり「正義」であるとする力の論理の先にはどんな世界が待っているのか近年の戦争が雄弁に語っています。政治家の不用意な発言や行動が繰り返される現在の政治状況にあってこそ、世界の友との対話を大切に互いの理解を深めることが出来る地道な文化交流を中断することなく、すすめていきたいのです。





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