わたくしたちの課題
日本キリスト者医科連盟 常任委員会議長  西脇洸一
 わたくしたち医療従事者は、病にある患者さんに真向かい、病を癒す、あるいは苦痛を取り除くという行為を仕事にしています。それらの行為を通して、その人の生命を尊重し、その方のこの世における人生の目的が完結されるよう願っています。
 人間社会がそこに属する人々の幸せを目的として作ったはずの国家という組織が、どこでどう変質してしまうのか、他の国家と衝突し、他国の、あるいは他民族の、場合によっては自国民に対してさえ、傷つけたり、命を奪ってしまうという戦争という行為のからくりは、わたくしにはまったく理解ができません。個人が行った殺人は罪に問われるのに、国家が行う大量殺戮は、逆に称賛されるというのは、いったいどういうことなのでしょうか?
 わたくしたちが生業とする医療をまるであざ笑うかのごとき、戦争というこの社会の仕組みと仕業に対して、わたくしたちは満身の怒りをもって反駁しなければなりません。
 しかし、思うのです。戦争には至らないまでも、わたくしたち人間社会の日常の営みの中に、例えば政治や経済活動の中にさえ、人権がおろそかにされ、他人の人格を貶めていることはないのでしょうか? 平和に逆行する要素がその中にあるのではないでしょうか? 西暦1600年代に始まった資本主義という仕組みは、南北社会の経済格差の上に成立しています。原料の供給、労働力の提供、販売圏の確保、これら資本主義を成り立たせている各要素の中に、人権や人格を損なう要素がすでに存在するように思えます。
 21世紀を生きるわたくしたちに課せられた課題は、この仕組みを乗り越えることにあるように思えます。わたくしたちの知恵と理性が、そして何よりもわたくしたちの信仰が、ここで問われているように思えてなりません。
                  (にしわき こういち)