平和のとりでを築く
田口 努  公益財団法人横浜YMCA 総主事 
 日本のYMCAの各都市YMCAでは、1970年代から韓国の各都市YMCA、1980年代から中国の各都市YMCAと姉妹関係を結ぶ動きが活発になった。1990年代に入り、いくつかの都市YMCAで日中韓の姉妹都市交流やユース世代ワークキャンプも行われるようになった。これらを全国のYMCA運動に広げようと、国別に開催されていた日韓YMCA連絡会議、日中YMCA連絡会議を継続しつつ、2004年に日中韓YMCA協議会を経て、2006年から日中韓平和フォーラムとして2年に1回開催され、戦前、戦中、戦後の歴史を直視し「北東アジアの平和構築」を目指して開催されている。本年は、2月に東京で8回目が開催予定だったが、新型コロナウイルスの感染拡大予防に伴い中止となった。一昨年の第7回は、民主化闘争で多くの市民が犠牲になった韓国・光州で開催され、民主化闘争や日本による植民地化から朝鮮戦争による中国の参戦、朝鮮半島が分断される中で、家族が犠牲になった市民の実体験の声を聴いた。第6回は中国・南京で、日本軍による南京大虐殺の地でフィールドワークが行われ日本の加害の歴史と虐殺がなぜ、どのようにして行われたのか、軍だけでなく、当時の日本の市民の差別的な日常も目の当たりした。第5回は、日本の広島で原爆と平和を考え、人類共通の課題である原水爆禁止に向けて共に学んだ。南京開催の際は、ちょうど戦後70年の年のクリスマス礼拝が開会礼拝で、その開会祈祷は、この平和フォーラムの意味を象徴する祈りだった。
 『人間の罪深さ故に、過去の悲劇が世界中で、アジアで、そしてこの南京で繰り返されたかを、改めて思い起こし懺悔する。イエス・キリストの愛の精神の実現を使命とするYMCAに属する者が、深い反省と相互理解の精神に立ちつつ、過去の過ちと立場の違いを乗り越えて、平和構築への道を探ることができるように。ユネスコ憲章の前文に「戦争は人の心の中で生まれるものであるから、人の心の中に平和のとりでを築かなければならない」とある意味を改めて噛み締めることが出来ますように。主イエスが教えられたように、平和を実現する人々となるようお導きください。』
 この祈りのもとに平和フォーラムが今も続けられている。近年は、特に、日中韓の3カ国のシニアとは別にユース世代のワークショップ型のキャンプが共に開催され、平和構築のためのアクションを考える機会を持っている。ユース世代は、日中韓の歴史認識の異なりを超えることは難しいが、毎回、数日間を過ごすと互いの国に対しての自分のもつ偏見に気づいたり、国を超えて一人の人間として人格を尊厳して共に生きる原点のようなものを感じ取る姿がある。このような機会を積極的に展開し、ユース世代が主体的に企画する平和フォーラムを目指している。そして、フォーラムだけではなく、幼児から高齢者まで集うYMCAのすべての活動において「自分の心の中に平和のとりでを築き、平和の担い手となるよう」目指して、日々の活動を進めていきたいと願っている。
 それぞれの皆様の平和の働きを通して、主によって心の中に平和のとりでが築かれよう祈ります。 
                    (たぐち つとむ)