私たちとスリランカの平和
中島 隆宏   アジア保健研究所(AHI)
 今年のイースター(4月21日)にスリランカ・スタディツアー参加者にSNSで、「ニゴンボのホストファミリーにお祝いメッセージを送ると喜ぶよ」と知らせました。その一か月前に10名がホームステイしたお宅はみんなカトリック信者で教会にも一緒に行きました。インターンの大学生がSNSで「ハッピーイースター!」と送ったところ、返信で同時多発テロでニゴンボのカトリック教会も爆破されたことを知らされたのでした。幸いにも関係者で犠牲になった人はいませんでした。しかし、2009年の内戦終結以来、大きなテロなどは発生しておらず南アジアの中では安全な国で、ツアーの訪問先として来年もと考えていた矢先の出来事でした。AHI元研修生たちも5月9日のメールで次のように近況を伝えてきました。「子供たちは学校に毎日登校できない。大人たちも以前のように都市にはでかけなくなった」と。
 AHIは10日間の旅程で、3か所、それぞれ2泊3日のホームステイを中心にした「生きる力をつかむ旅」を実施しました。北西部州クルネーガラ県では「象と人の共生」の課題に取り組むシンハラ仏教徒、中部州キャンディ市周辺では紅茶農園労働者のインドタミル・ヒンドゥー教徒、最後にニゴンボの漁師の家族はカトリック信者と宗教も異なりました。それぞれAHIの元研修生たちのNGOが支援して地域の課題に取り組む住民グループのリーダー宅一軒に一人ずつホームステイをします。英語や片言のシンハラ語やタミル語でコミュニケーションをとります。そこで高校生、大学生、社会人が共に生きる経験をします。各ホームステイ後の振り返り会で学び合い、次のホームステイに向かいます。人と出会ってその課題に取り組む姿、乗り越えようとする努力から学びます。人々が生活の中心に宗教をおき、お互いを尊重しながら共生していることに新鮮な驚きをもちました。
 3月29日のフェアウェルパーティーはニゴンボと、遠くクルネーガラからもホストファミリーが集結し総勢100名になりました。参加者の中には、自分がどちらの家族と一緒にいればよいのか、と戸惑う場面もありました。「血のつながりはないけれど本当の家族となった」と語る参加者もいました。
 私たちと家族になった人たちの地域で起こった今回のテロは、日本の参加者に自分事として平和を考え行動するきっかけになった事と思います。参加者たちは一人一人の平和の祈りを込めた折鶴を写真と一緒に送ることにしました。また、自分たちの学びを文集にし、AHIのオープンハウス(アジアの文化祭)で発表し、地域の人たちに伝えようとしています。
 また、今年もスリランカからAHI国際研修に研修生を受け入れ、スリランカにいる150名以上の元研修生たちは、スリランカ社会で健康づくり、地域づくり、平和づくりをもっと進めていくはずです。スリランカに以前のような安定が訪れて、日本の私たちが再び訪問し交流する日が遠くないことを願っています。
                       (なかじま たかひろ)