敵意の克服ーキリストに集中してー

石橋秀雄 日本基督教団総会議長

 「戦後レジームからの脱却」が訴えられ、戦後70年間築き上げたものが次々に崩されています。戦後レジームは、明治憲法下にあった旧体制と決別して新しい国づくりをしてきました。憲法は国家権力を縛って、わたしたちの権利と自由を守り、平和を守って来ました。
 アジア諸国の民に多大な苦しみを与えてしまった過ちを二度と犯すことのないように、新憲法の下で「再び戦争の惨禍(さんか)が起こるこのないようにする決意」をした上で、憲法9条2項によって一切の戦力を放棄し、戦争が出来ない国になりました。しかし、偏狭な国家主義が危機意識を煽って軍事力を高め、軍事費が増大し、国家間の緊張が高まっています。
 パウロはキリストに集中します。
 「しかしあなたがたは、以前は遠く離れていたが、今や、キリスト・イエスにおいて、キリストの血によって近い者となったのです。十字架を通して、両者を一つの体として神と和解させ、十字架によって敵意を滅ぼされました。」(エフェソ2章13節以下)と語っていきます。「キリスト・イエスを通して、キリストの血において」「ご自分の肉において」「十字架を通して、十字架によって」とパウロはキリストに集中し、キリストへの信仰告白において開かれる『平和』を指し示します。そのキリストの平和は、遠くのものを近いものとし、神と和解させて敵意を滅ぼし、二つのものを一つとする『平和』です。
 かつて侵略戦争をして、隣人を、近いものを遠くのものにした痛みを私たちは見つめながら戦後70年の歩みをしてきました。しかし今、武力によって近いものが遠いものにされ、憎しみと怒りが渦巻く世界になり、世界は苦しんでいます。
 日本が戦争の出来る国となり私たちの愛する子ども達、孫達、子孫が武器をもって他国の人の命を奪い、加害者として他国の人を遠いものにして憎しみと怒りを広げるものになってはなりません。また、他国の武器によって命が奪われ、憎しみと敵意が、わたし達の国に広がることがあってはなりません。今この時、キリストに集中し「キリストの平和」の実現の為に、祈り、わたし達の力を合わせあうことが求められています。 
                         (いしばし ひでお)