「二度とこの道を戻ってはならない」
弓矢 健児   日本キリスト改革派教会
宣教と社会問題に関する委員会委員長
千里山教師

 

 「王は馬を増やしてはならない。馬を増やすために、民をエジプトへ送り返すことがあってはならない。『あなたたちは二度とこの道を戻ってはならない』と主は言われた。」(申命記17:16)
 立憲主義という言葉が様々な場所で語られるようになりました。立憲主義とは憲法によって国家権力を制限し、国民の基本的人権を保障しようという近代民主国家の智慧です。この立憲主義という言葉が一つの絆となって、思想・信条の違い、年代の違いを超えて人々を結び合わせています。
 その背景には、安倍政権が昨年9月参議院本会議にて、「安保法案」を強行採決したことがあります。98%の憲法学者が指摘するように、集団的自衛権の行使を容認する安保法制は、日本が武力攻撃されていなくても政府の判断しだいで、他国を先制攻撃することを可能とする戦争法制であり、明らかに戦争を放棄した憲法第九条に違反します。さすがに従来、自民党政府でさえ「集団的自衛権は違憲である」と言わざるを得ませんでした。だからこそ、彼らは憲法改正を目指してきたのです。
 しかし、昨年、安倍政権は憲法改正しないまま、安保法案を強行採決しました。彼らはまさに近代民主国家の根幹である立憲主義を否定したのです。私たちはここに安倍政権の全体主義的本質を見て行かねばなりません。そして、権力の全体主義化はまさに権力の悪魔化であることを見抜いていかねばなりません。
 確かに、聖書の中に立憲主義という言葉はありません。しかし、聖書がはっきりと教えていることは、王は決して絶対者ではないということです。王の権能は神から委託されたものであり、その委託された範囲で行使してこそ正当性、合法性を有します。それ故、神は律法を通して、王の権力の限界を定めています。特に申命記17:16では、「王は馬を増やしてはならない」と命じています。つまり、軍馬=軍事力を増強することに対する制限が定められているのです。また軍事費を賄うために民をエジプトの奴隷に売るようなことがあってはならないと警告しています。つまり、王には国民の生活を犠牲にして軍備を増強する権能は与えられていないのです。
 今、政治が為すべきことは憲法違反の安保法制によって、日本を戦争国家にすることではありません。そうではなくて、膨大な軍事費を削り、深刻な格差と貧困の問題を解決し、国民生活を豊かにしていくことです。為政者はそのために神から権能を委託されています。日本は軍国主義によって国民の命と権利を奪った過去を経験しました。主は言われます。「あなたたちは二度とこの道を戻ってはならない」。                      (ゆみや けんじ)