「憲法改正」は戦後日本の政治・社会の全否定


日本福音同盟社会委員会委員長/高岡バプテスト教会牧師
渡部敬直(わたなべ ひろなお)



 この夏に予定されている参議院選挙を前に、「憲法改正」が争点になるとの見通しが安倍晋三首相、菅義偉官房長官、石破茂幹事長からそれぞれ表明された。7月にも行われると予測されている選挙直前の発言の意味は重大である。参議院選挙時においては当面の課題として、選挙改正の手続きを定めた「第96条」改憲についてのみ訴える可能性もあるが、いずれ自民党草案に沿った憲法改正が具体的に提案されることは間違いない。
 自民党の憲法改正草案の本質は部分的な条文の訂正にとどまらず、戦後日本の否定につながっていくものである。憲法の危機は、戦後日本の危機と言える程の重大な問題である。自民党が改正草案で示している中身は、現行憲法を部分的に改正するという条文の問題ではなく、本質的に現行憲法の基本理念と戦後の日本を否定し、戦前の大日本帝国憲法に戻そうとし、戦前の日本社会と政治体制に戻そうという企てなのである。
 国民主権は天皇元首に代えられ、基本的人権も「自由及び権利には責任及び義務が伴うとを自覚し、常に公益及び公の秩序に反してはならない」として、個人の自由が制限される内容となっている。戦前の治安維持法のようなものが復活して時の政権や警察が「公益に反するとか公の秩序に反する」と判断すると、取締りや検挙ができることになる。言論の自由や報道の自由が侵され、出版・放送・教育・家庭のあり方まで制限や取締りの対象となる、という危険極まりないものである。
 現行憲法は国家権力が国民の権利を侵さないように国民が権力を規制する内容となっている。憲法の尊重擁護義務を定めた第99条には「天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ」と明記され、この中に「国民」は入っていない。自民党草案では「全ての国民は、この憲法を尊重しなければならない」と言い、憲法で国民に縛りをかけようとしている。憲法擁護の義務も負わない天皇を元首に据えることで国民主権を実質的に否定し、天皇を元首に戴く国家に国民を従わせようとし、従わない国民は法律の拡大解釈によって容赦なく取り締まれるようにする、という恐ろしい内容を秘めた改正(いや改悪!)草案なのである。
 それこそ戦後日本の全否定である。そんなことを絶対に許してはならない。キリスト教信仰の立場からも「天皇を元首に戴く国家」など断じて認められない。





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