「執り成しの祈り」

日本聖書協会 総主事   
渡部 信(わたべ まこと)

 今年の2月、ワシントンDCで開催されたアメリカ国家朝餐祈祷会に出席することが許された。この国家朝餐祈祷会は58年前、アイゼンハワー大統領の時代に、共和党と民主党の国会議員が、政策の違いを超えて、アメリカ合衆国と全世界のために神の導きを求めて共に「執り成しの祈り」をしたことに由来する。今でも毎木曜日の朝、有志の国会議員が集まり祈祷会が継続されているとのことだが、年に一度、国内と全世界へ招待状を出し、時のアメリカ大統領を招いて開かれるのがこの国家朝餐祈祷会である。
 今回は、スペインの首相が特別ゲストとして招かれ、ヒラリー・クリントン国務長官のメイン・スピーチ、オバマ大統領のスピーチと続いた。この会はキリスト教色を一切出さず、聖書から「イエスの教えにならう」をテーマにユダヤ教徒、イスラム教徒、他の宗教者をも受け入れ、世界の平和と和解のために一同に集い祈る場となっている。
 ヒラリー・クリントンは政治家として特に女性と子供の人権活動を訴えてきた人だが、まず自分自身の信仰を証しし、自分がメソジスト教会に通う両親に育てられ、大統領夫人時代から聖書のみ言葉が唯一の心の支えであること、政策を論争するだけでは本当に必要な現場の声を聞くことはできず、求めに対して迅速に行動する必要があることをマザー・テレサから学んだことなどを語った。またエリヤの物語を通して、自分の確信する信仰や信念が正しいのかどうか謙虚になること、そして祈りを通して神の静かな声を聴き分けることの大切さを述べた。
 オバマ大統領はスピーチの中で、「民主主義の多数決の手法だけでは正しい政治はできない。片方が正しく、片方が間違ったことになるからだ。解決へのゴールを目指して、双方が誠実に話し合い、自分も相手も変えられることによって物事は達成できる。信仰者には本当の敵はいない。そこには祈りと信仰が必要である」と訴えた。そして政策論争が相手への誹謗・中傷へとすり替わっている現在の政治のあり方に懸念を示した。
 私は今回この会に出席し、両者のスピーチを通して、「平和を実現する」ためには成熟した考えと行動が求められることを教えられた。そしてみ言葉に導かれ、執り成しの祈りを大切にする国家朝餐祈祷会が、このようにして存続している恵みを神様に感謝してやまない。国家朝餐祈祷会はアジアでは韓国で既に行われているが、日本でも最近になって行われるようになった。
 日本聖書協会は、今まで200年の間、教派を超え、人種を超え、思想を超え、国境を越え、聖書を全ての人々に届ける使命にあずかってきた。そこに書かれた神からのメッセージが、世界に平和と和解をもたらすものであることを信じているからである。今後も多くの支援してくださる方々と共に、そのために祈っていきたい。




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